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名古屋地方裁判所 昭和38年(行)23号 判決 1967年7月14日

名古屋市緑区鳴海町字京田一二番地

原告

株式会社米増商店

右代表者代表取締役

近藤兼幸

右訴訟代理人弁護士

福岡宗也

右訴訟復代理人弁護士

田畑宏

名古屋市熱田区花表町一丁目

被告

熱田税務署長

右訴訟代理人弁護士

入谷規一

右指定代理人

川本権祐

加藤利一

佐藤辰男

市川有久

川村俊一

鈴木弘太郎

右当事者間の昭和三八年(行)第二三号法人税審査決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方が求めた裁判

(原告)

「被告が原告に対し、昭和三六年一二月二七日附をもつてなした昭和三五年七月一日より昭和三六年六月三〇日にいたる事業年度の原告所得金額を二、八四二、八〇〇円とした更正決定(但し名古屋国税局長の昭和三八年七月一八日附審査決定により所得金額二、二五五、七一九円と変更された)のうち、所得金額二六一、八五六円を越える部分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、当事者双方の主張

(原告)

(請求原因)

(一)  原告は肩書住所地において米穀等の販売を業とする株式会社であるが、昭和三六年八月三一日被告に対し自昭和三五年七月一日至同三六年六月三〇日(以下本件事業年度という)の所得金額を二六一、八五六円と確定申告したところ、被告は原告が収支算定の基礎となしうる帳簿を備えず、かつその所得の申告は真実に反しているとして法人税法第三一条の四第二項(但し当時施行の法律、以下同じ。)により原告の所得を推計したうえ昭和三六年一二月二七日原告の本件事業年度の所得金額を二、八四二、八〇〇円とする更正決定をした。そこで原告は昭和三七年一月二六日、被告に対し再調査を請求したが、同年四月一九日棄却されたので、同年五月八日、更に名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は原決定を一部取消し、原告の本件事業年度の所得金額を二、二五五、七一九円に変更した。

(二)  しかし本件更正処分は次の理由で違法であり、取消されるべきである。

1 法人税法第三一条の四、第二項所定の推計による認定課税は納税義務者が信頼できる帳簿その他の書類を備えず帳簿等により直接その所得の実額を調査し計算することができない場合に限られるべきところ、被告は原告が信頼できる帳簿を備えているにもかかわらず、これを無視し、直ちに推定による認定課税をしたのであるから本件更正処分は明らかに違法である(被告が原告備付の諸帳簿類を無視したことは被告の更正処分前の調査において担当税務署員が、原告は白色申告法人であるからその帳簿によつては所得の実額を把握できないと言明していた事実ならびに本件更正処分にあたつて、更正の理由を明らかにしなかつた事実から見て明白である)。

被告は原告備付の帳簿の金額に不符合がある旨主張するが、これは被告が本訴係属後違法な方法で証拠収集に努めた結果、発見したものであつて、本件更正処分前に知つていたものではない。即ち被告は本訴提起後である昭和三八年一二月四日と五日、本訴の被告指定代理人の一人である中子良吉を原告方に赴かせ、本件事業年度の翌年度の法人税の税調べであると称し、原告代表者の不在に乗じ家人に本件事業年度の元帳等をも提出させ調査した結果、原告備付帳簿の金額に不符合があることを発見したのである。

2 原告の本件事業年度における所得額は別表一の収支計算書の「原告主張金額欄」に記載したとおりで、右確定申告額と同一である。従つてそれを超える所得額を認めた本件更正処分は違法である。

よつて本件更正処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ。

(被告)

(請求原因事実に対する認否)

請求原因(一)の事実は認める。同(二)の事実は否認する。

(本件更正処分の適法性の主張)

(一)  原告の確定申告に対し被告が調査したところ次の事実が判明した。

1 原告は青色申告の提出を承認された法人ではないこと。

2 原告が使用している各種帳簿書類間には不符合な点があること。

そして右不符合の点について原告からなんら合理的な説明も得られなかつた。

右の諸事実から原告の帳簿書類は措信することが出来ず、他に原告の所得を明確にする資料もなく、また調査に際して原告の積極的な協力は殆んど得られなかつた。

そこでやむなく法人税法第三一条の四、第二項の規定により推計課税をなしたものである。

原告帳簿間の不符合はもとより更正決定の前段階の調査で判明していた。

中子事務官が本件係争年度の翌期の法人税の調査をしたことはあるが、それは本件係争年度所得調査とは関係がない。もちろん、被告においても原告の主張する会計処理の手続、すなわち期中における現金主義的記帳方法を期末において発生主義会計に修正していくという方法、手続自体が誤つていると主張するものではない。問題は右会計処理の前提をなす各種帳簿の記帳が実際、正確になされていたか否かである。蓋し各種帳簿の記帳が正確に行なわれている限り以下に述べるような帳簿間の不一致は生じえないからである。

被告のいう原告帳簿間の不符合とは次のとおりである。

一、現金勘定について

現金出納帳の昭和三六年六月三〇日(以下期末という)の残高は二三三、九〇三円、総勘定元帳(以下元帳という)の現金勘定期末残高は五三九、二九九円、期末現在の決算貸借対照表によれば二〇七、二九九円であつて、それぞれ不符合である。

二、当座預金勘定について

銀行勘定期末残高は三一一、〇八六円、元帳の同勘定残高は五五七、六二六円、貸借対照表記載当座預金は三四〇、八二六円とあり、それぞれ不符合である。

三、受取手形について

元帳残高は一一一、三一〇円、貸借対照表では八九、一二四円で、不符合である。

四、支払手形について

元帳残高は六、〇四九、六五〇円、貸借対照表では二、八〇五、三七七円で、不符合である。

五、借入金について

元帳残高は四一〇、〇〇〇円、貸借対照表では三、一六〇、〇〇〇円で、不符合である。

六、近藤勘定について

元帳残高は二、八〇三、〇〇四円、貸借対照表では一、一〇三、〇〇四円で、不符合である。

七、売上について

元帳では八〇、八五一、二二九円、損益計算書では八二、一六一、九八九円で、不符合である。

八、仕入について

元帳では七八、九二三、八五八円、損益計算書では七九、〇〇四、四七二円で、不符合である。

九、雑収入について

元帳では二二、七六三円、損益計算書では三八四、四二三円で、不符合である。

右各種帳簿間の不一致の内容、原因は帳簿等を少し詳細に調査すれば容易に判明するような簡単なものでも些少なものでもない。又、これらの不符合についての原告の説明は訴訟になるまでされたことがない。しかも、この不符合についての原告の本訴における説明も単にこれに見合う種々の数字をもつてきたというにすぎず、合理的な裏付けとなる証拠は存しない。

(二)  原告の本件事業年度の所得金額は被告の推計計算によれば別表一の収支計算書の「被告主張金額欄」のとおりであつて結局、原告の所得額は、二、三五二、三二六円であるからその範囲内でなされた本件更正決定は適法である。

ところで、原告は被告のなした右計算のうち、(イ)、各種米雑穀、食品、薪炭等の期中仕入(以下、期中仕入という)、(ロ)、売上原価、(ハ)、売上金額、(ニ)、リベート、(ホ)、減価償却額、(ヘ)、支払利息及び(ト)、売却損の点を除きすべて認めているから、以下右の争いのある部分について述べる。

(イ) 期中仕入

仕入高の内訳は別表二記載のとおりである。仕入高の算定は原告備付の帳簿および取引先調査によつた。仕入先の明らかにされた分はその口座により、仕入先の明らかでないものはこれを種類別に一括集計し「その他」と表した。

(ロ) 売上原価

原告の期中仕入高と期首在庫高の和から期末在庫高を控除して算出した。その内容は別表二の通りである。

(ハ) 売上金額

売上原価を所得税調査において使用する「昭和三六年商工庶業所得標準率表」(以下所得標準率表という)の原価率で除し、これに同表の雑収入率を乗じて算出した雑収入金額を加算して算出した。その内容は別表三の通りである。

1 小麦粉については、小麦粉のまま販売する場合と、小麦粉を乾麺に加工して販売する場合とがあるが、それぞれの売上割合については、原告の申立によつて等分した。その結果、乾麺の売上原価は一、七六八、四六三円、小麦粉の売上原価は一、七六八、四六四円と算定した。小麦粉と雑穀(売上原価八二一、七一五円)とを合算して二、五九〇、一七九円となる。

2 「所得標準率表」は次のような方法によつて作成されたものである。

「所得標準率」は推計学の理論に立つて、商業工業等における経営活動を分析検討し、これらの業態の売上収入金額に対する差益、所得、雑収入、経費等の平均的割合を百分率により求めたものである。

「所得標準率」は、各国税局において、管内の税務署に指示して商工庶業を対象として、その地域、業種、規模等により、個々の業者の中から、無作為抽出した者の、事業収益の実態を調査して、その収入金額に対する差益率、所得率、経費率、雑収入率等の割合に関する資料を集め、これを集計して業種別平均率を算出検討した結果に基づき作成される。

3 雑収入については、次のようなものが計算されている。

(A) 配給米、自由米については、精米時に生ずる「米ぬか」および俵の販売益

(B) 乾麺については、空袋の販売益

(C) 押麦雑穀については、俵、空袋の販売益

(D) 綜合食料品については、箱の販売益

(ニ) リベート

原告が出資している愛知米穀商協同組合より原告に支払われたものである。

(ホ) 減価償却額

原告は九二五、七二四円を計上しているが、その対象となつた「オート三輪車」の償却額を検討したところ、原告の計算は一三九、二二五円過大に計上していると認められたので右償却額を七八六、四九九円と認定した。

右「オート三輪車」の超過償却額の計算は次の通りである。原告は個人営業時代である昭和三三年六月に「オート三輪車」一台を五三三、一七〇円で取得し、昭和三五年七月一日原告会社設立時に右取得額と同額でこれを設立会社に引き継いでいるが、取得時より引継ぐまでの間の経過年数、使用状況等を勘案すれば原告会社の引継価額は時価より相当過大に評価している。すなわち所得税法に規定されている減価償却の定率法による計算方法に従い、本件「オート三輪車」の減価償却額を算出しこれを基礎として超過額を計算すれば、その額は次のとおりとなる。

(A) 取得時より、譲渡時までの減価償却額を算出する。

<省略>

(B) 取得価額より、(A)の減価償却額を差引いて、原告会社の引継価額を算出する。

取得価額533,170-減価額317,865=引継価額215,305円

(C) (B)の引継価額を基礎として、原告会社の係争事業年度の減価償却範囲額を算出する。

償却計算の基礎215,305円×償却率0.438=償却範囲額94,303円

(D) 原告会社が係争事業年度の決算に計上した本件「オート三輪車」に対する減価償却額から(C)の減価償却範囲額を差引いて減価償却超過額を算出する。

決算計上の償却額233,528円-償却範囲額94,303円=償却超過額139,225円

(ヘ) 支払利息

原告の決算計上額一八五、八七三円より、未経過利息一七、九五〇円を差引いて算出した。その内容は次の通りである。原告は協和銀行笠寺支店より期中において左の金額を借入れこれに利息を支払つている。

(A) 同行貸付番号3/44号貸付分について

原告は昭和三六年六月一二日に百万円借入れ、同時に同日より同年七月一一日まで三〇日間の日歩一銭九厘の利率による利息五、七〇〇円を支払つているが、原告の事業年度は同年六月三〇日までで、七月一日より七月一一日まで一一日間は未経過日数となる。

その未経過分利息は次のとおり二、〇九〇円である。

<省略>

(B) 同貸付番号30/133号分について

原告は昭和三六年六月一五日に百万円借入れ、同時に同日より同年八月一六日まで六三日間の日歩二銭六厘の利率による利息一六、三八〇円を支払つている。

同様その未経過日数は四七日で、未経過分利息は

<省略>

(C) 同貸付番号30/163号分について

原告は昭和三六年五月一六日に百万円借入れ、同時に同日より同年七月一四日まで六〇日間の日歩二銭六厘の利率による利息金一五、六〇〇円を支払つている。その未経過日数は一四日で未経過分利息は

<省略>

すなわち、未経過利息は右(A)、(B)、(C)の合計一七、九五〇円となる。

(ト) 売却損

原告は「オート三輪車」一台の売却損三二〇、〇〇〇円、「ミゼツト」一台の売却損一二三、〇〇〇円、計四四三、〇〇〇円を計上しているが、右の「オート三輪車」売却損のうち、二〇〇、二五八円を認めることができなかつたのでこれを否認し売却損を二四二、七四二円と認定した。

右「オート三輪車」の売却否認額の計算は次の通りである。原告は個人営業時代である昭和三四年五月に「オート三輪車」一台を五二〇、〇〇〇円で取得し、昭和三五年七月一日原告会社設立の時に、右取得額と同額でこれを設立会社に引き継いだ。ところが原告は係争事業年度である昭和三六年二月に、これを二〇〇、〇〇〇円で売却したため、本事業年度に売却損として引継価額五二〇、〇〇〇円より売却価額二〇〇、〇〇〇円を差引いた三二〇、〇〇〇円を売却損として計上している。しかし右「オート三輪車」は(ホ)において述べたとおり、原告の引継価額は過大であり、(ホ)と同じ減価償却の計算方式により適正な引継価額が算出されるべきであり、これにより算出される売却否認額は次のとおりである。即ち

(A) 取得時より譲渡時までの減価償却額を算出する。

<省略>

(B) 取得価額より(A)の減価償却額を差引いて、原告会社の引継価額を算出する。

取得価額520,000円-減価額200,258円=引継価額319,742円

(C) (B)の引継価額から売却価額を差引いて売却損を算出する。

引継価額319,742円-売却額200,000円=売却損119,742円

(D) 決算計上の売却損から(C)の売却損を差引いて否認額を算出する。

決算計上売却損320,000円-売却損119.742円=否認額200,258円

(三)  以上の次第で原告の本件事業年度の所得金額は別表一の「被告主張金額欄」記載のとおりであるからこれより低額の所得を認定した被告の本件更生決定は適法であり、原告の本訴請求は棄却されるべきである。

(原告の主張)

(右被告の更正処分の適法性の主張に対して)

(一)、1 被告主張(一)の事実のうち原告が所謂、白色申告法人であること、被告主張の各帳簿に被告主張の金額が記載されている事実は認めるも、その余の事実は否認する。

2 原告の帳簿類は不備、不正確ではない。原告は営業用帳簿として現金出納帳、銀行預金帳、元帳および補助簿として入出金伝票、配達伝票等を備えつけ、正確に記帳していた。ただ、原告会社は小規模でもあり、営業上の諸取引も比較的単純であるところから、各事業年度の諸取引は現金主義的記帳方法により、期末において整理記帳を行なつて税法の要求する発生主義会計に修正している。すなわち

A 期中に現金出納帳、銀行預金帳を特殊仕訳帳として使用する。

B これから元帳の各口座へ転記記入する。

C 期末において、元帳の各口座残高を集計して、残高試算表を作成する。

D 同表を精算表として整理記入、誤記訂正等を行なう。

E その結果に基づいて、貸借対照表、損益計算書を作成する。

そして、これらの会計処理や諸手続は一般に公正妥当と認められる方法である。

ただ、原告は期末における決算書類の作成を自らしないでこれを税理士である上島事務所員に依頼した。ところが右税理士が事務繁忙のため、前述の精算表に基づく期末の整理記入を元帳の当該勘定口座に記入することを省略したため、一部の勘定科目について各帳簿諸表の間に金額の不一致を生じたにすぎない。しかもこれらの不一致は、当該帳簿等を少しく調査すればその理由は容易に判明するものばかりである。

一、現金勘定について

現金出納帳残高二三三、九〇三円が正しい。

ただ期末の実在現金が二六、六〇四円不足したのでこれを雑費に計上し、貸借対照表残高を二〇七、二九九円と修正した。また、元帳残高五三九、二九九円と貸借対照表残高二〇七、二九九円との差額三三二、〇〇〇円は現金仕入の記帳洩れによるものである。即ち、原告は多数の一般農家から多くの回数に分けて僅少額ずつ仕入れるので、ことの性質上、未知の人からその氏名を聞くことなく仕入れたものも相当ある。従つてその明細を明らかにすることは不可能であるが、右差額はこれら代金の記帳もれの結果なのである。

二、当座預金勘定について

貸借対照表計上額三四〇、八二六円が銀行勘定残高三一一、〇八六円よりも、二九、七四〇円多いのは同額に相当する支払日前の小切手金額が貸借対照表上には含まれているからである。その内容は株式会社協和銀行笠寺支店における原告会社口座について生じたもので左のとおりである。

A 光パン粉分

四、七四〇円 小切手番号六九三三

B 鳴海センター分

二四、〇〇〇円 小切手番号六九五〇

C 鳴海町役場分

一、〇〇〇円 小切手番号九〇五四

元帳残高五五七、六二六円と銀行勘定残高三一一、〇八六円との差額二四六、五四〇円は元帳への転記誤謬に基づくものでその内訳は次表のとおりである(なお表中、△印は預金の払出しを意味する)。

<省略>

三、受取手形について

期末残高は一二一、一六〇円が正当で元帳、貸借対照表計上額はいずれも誤りで若干の計上洩れがあつたものである。受取手形一二一、一六〇円の内容は次のとおりである。

A 新美組 一八、六六〇円

B 新美組 九二、五〇〇円

C 阪野健一 一〇、〇〇〇円

四、支払手形について

協和銀行からの借入金とすべきものを、誤つて支払手形勘定に計上するなど元帳の当該勘定科目への転記記入の誤りが発見されたので、前記精算表で支払手形勘定より他勘定へ振替えたもの四、二九九、四四〇円、期末残高の整理記入による追加計上額一、〇五五、一六七円の除加算の結果、貸借対照表計上額二、八〇五、三七七円が算出された。

A 他勘定へ振替えたもの四、二九九、四四〇円

a 愛知マツダ 六、〇〇〇円

b 協和銀行笠寺支店 一、〇〇〇、〇〇〇円

c 右同 右同

d 右同 六〇〇、〇〇〇円

e 富田 五〇、〇〇〇円

f 協和銀行笠寺支店 四〇〇、〇〇〇円

g 愛糧商事 七五〇、〇〇〇円

h 集計上の計算誤謬額 四九二、八四〇円

B 追加計上額 一、〇五五、一六七円

a 愛知米商 一、九〇四円

b 米商 一、〇三三、二六三円

c 鳴海ダイハツ 二〇、〇〇〇円

五、借入金について

貸借対照表の三、一六〇、〇〇〇円が正しい。元帳の金額と相違するのは前述四の支払手形勘定からの修正転記三、〇〇〇、〇〇〇円を含む訂正をしたからである。

六、近藤勘定について

元帳残高二、八〇三、〇〇四円から自家消費分として原告が見積つた一、七〇〇、〇〇〇円を控除したため貸借対照表上計上額一、一〇三、〇〇四円が算出された。この一、七〇〇、〇〇〇円は売上高に、一、六二三、七三七円、雑収入に七六、二六三円とそれぞれ加算されている。右の自家消費分一、七〇〇、〇〇〇円の内訳は左のとおりである。

A 売上計算誤謬額 一、三五三、七〇〇円

B 自家消費商品代 二七〇、〇三七円

C 大栄木工受取利息 一四円

D 愛知米穀商協同組合受取配当金 二二、七四九円

七、売上について

期中においては現金主義による記帳を行なつているため、元帳残高は係争年度中の実際の現金、預金、受入額である。これを発生主義に基づく売上高に修正するため、元帳残高、八〇、八五一、二二九円より期首売掛金二、〇九七、五三四円を減算し、期末売掛金一、七八四、五五七円および六に述べた自家消費分一、六二三、七三七円を加算し、損益計算書計上額八二、一六一、九八九円を算出した。

八、仕入について

七と同じく現金主義的記帳残高を発生主義的金額に修正し、一般農家からの仕入洩れ三三二、〇〇〇円を加算して損益計算書計上額七九、〇〇四、四七二円を算出した。

九、雑収入について

元帳残高二二、七六三円から期首未収リベート二一、一三四円を減算し、期末リベート五一、二四四円および自家消費分七六、二六三円ならびに計算誤謬に基づく訂正額二五五、二八七円を加算し、損益計算書計上額三八四、四二三円を算出した。

元帳残高は六のC、Dの合計額であり、期末リベート、期首リベートは愛知米穀商協同組合からのものである。又、計算誤謬に基く訂正額は、個人営業時代からの引継買掛金が正確でなかつたためか、期末の買掛金残高と不一致を生じたので右不一致額を雑収入として処理したものである。

以上説明した点は各帳簿を少し丹念に調査すれば容易に判明し、従つて右帳簿によつて原告の本件事業年度の所得金額は十分、認定し得るものである。

(二)  被告主張(二)の事実は争う。

第三、証拠関係

一、原告

証人後藤欣一、同近藤増吉の各証言を援用する。

書証の提出は、別紙書証目録「原告提出分」記載のとおりであり、乙号証に対する認否は、同目録「被告提出分」の項の「原告の認否」の欄記載のとおりである。

二、被告

証人鶴田亀鶴の証言を援用する。

書証の提出は、別紙書証目録「被告提出分」記載のとおりであり、甲号証に対する認否は、同目録「原告提出分」の項の「被告の認否」の欄記載のとおりである。

理由

一、請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

本件の争点は、本件更正処分の手続的適法性と実質的適法性であるから以下この点について判断する。

二、書証の成立

以下の判断の便宜のために、あらかじめ書証の成立等について一括して検討すると成立等に争いのあるものは別紙書証目録の「成立を認めた証拠」欄に記載の各証拠により、すべて形式的証拠力を認めることができる。

三、 本件更正処分の手続的適法性

(推計課税の適否について)

原告は被告が原告において信頼できる帳簿を備えているにもかかわらず、これを無視し直ちに推定による認定課税をした旨主張するので、先ずこの点につき検討する。

1  甲第一号証ないし四号証、証人後藤欣一(第一回、第二回)、同近藤増吉、同鶴田亀鶴(第一回、第二回)の証言を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、原告は営業用帳簿として現金出納帳、元帳、銀行勘定帳および配達伝票等を備えつけていたが、そのうち、現金出納帳、元帳、銀行勘定帳の作成は上島税理事務所勤務の事務員、訴外武藤満男、同後藤欣一らにまかせており、同人らは原告作成の配達伝票および入出金の概略を記載した簡単なメモに基き右諸帳簿を記帳していたが、右伝票およびメモは原告会社が顧客に商品を配達や仕入れをした際一部まとめて記帳していたものでその記帳は必ずしも正確ではない。

以上のように認められ、右認定をくつがえすにたりる証拠はない。

2  ところで右伝票及びメモに基き作成された原告会社の各種帳簿に、被告主張の如き金額が記載されており、その限度で原告会社の諸帳簿に記載されている金額に不符合があることは当事者間に争いがない。

この不符合の理由につき原告は各勘定科目について説明しているが、この説明が果して合理的なものであるかどうか、以下二、三の科目についてこれを検討する。

(イ) 現金勘定について

(a) 現金出納帳の期末残高二三三、九〇三円と貸借対照表の金額二〇七、二九九円の差額二六、六〇四円につき、原告は現金出納帳の出金の項に二六、六〇四円と記入し、従つて、その残高は二〇七、二九九円とするところを損益計算書の雑費に、二六、六〇四円を計上したに止まり現金出納帳に右雑費を記帳するのを怠つた旨主張する。

しかし甲第一号証、乙第一八号証、証人後藤欣一(第一、二回)の証言によつても右事実は認めがたく、後藤欣一が期末に損益計算書及び貸借対照表を作成する際、現金出納帳残高に比して実在現金が二六、六〇四円不足していたのでこれを損益計算書に雑費として計上し、つじつまを合わせたものであることが認められる。

(b) 元帳の現金残高五三九、二九九円と貸借対照表の金額二〇七、二九九円の差額三三二、〇〇〇円につき、原告は現金仕入れの記入もれと主張する。

しかし証人後藤欣一の証言(第二回)によれば現金勘定の期末残高は二三三、九〇三円であるから、現金仕入れは三〇五、三九六円でなければならないのでこの点に関する原告の主張は失当である。

(c) 原告備付の元帳(甲第一号証)によつて計算すればその現金勘定の期末残高は五三九、二九九円となる。

ところが同帳簿の期末残高欄には二〇七、二九九円と記載されており、このくいちがいについて原告はなんら説明しない。

(d) 原告の現金出納帳(甲第三号証)の七月三一日の摘要欄に七月一日出金として合計金額一、一三〇、一八七円が記入されているが、これは証人後藤欣一の証言(第二回)によれば、本来七月一日に出金され、従つて一日の摘要欄に記入すべきものを三一日まで記載しなかつたことが認められる。

右事実によれば原告は一ケ月ちかい間、百万円以上の現金支出を現金出納帳に記帳せず放置していたこと、従つて一ケ月も実在現金と帳簿残高とが照合されなかつたことが推認され原告の現金管理はかなり杜撰であつたといわざるをえない。

(ロ) 当座勘定について

(a) 元帳残高五五七、六二六円と銀行勘定残高三一一、〇八六円の差額について原告が主張する点を検討する。

(昭和三六年二月二一日の取引について)

原告は同日、近藤商店から仕入れた代金三五二、五六〇円の出金を元帳の協和銀行笠寺支店勘定に記入もれになつていると主張する。

そうすると原告の主張に従い元帳の笠寺支店の二月二一日の出金の項に三五二、五六〇円を記入するならば、当然右元帳の笠寺支店の仕入勘定借方にも右金額を計上しなくてはならない。ところが、そのように記帳すると必然的に損益計算書と不符合をきたすことになるが、この点につき原告はなんらの主張、説明をしない。

(同年三月二五日の取引について)

原告は「同日、協和銀行笠寺支店へ三六〇、二七〇円預け入れた、従つて元帳の笠寺支店の同日入金の項に右金額を記入すべきところ、誤つて一〇万円少い二六〇、二七〇円と記入した」と主張する。

しかし、甲第三号証の現金出納帳の三月二五日の摘要欄には「預入・協和・笠寺」として支払金額二六〇、二七〇円と記載されており、原告主張に従えば、この記載も誤りということになる。そうなると、現金出納帳の残高も当然影響を受け、現在の帳簿上の金額二三三、九〇三円より一〇万円を引いた一三三、九〇三円が期末残高ということになるはずなのに、この点についても原告はなんら説明しない。

(b) 元帳残高五五七、六二六円と銀行勘定残高三一一、〇八六円の差額二四六、五四〇円について原告の主張するところを全般的に検討する。

昭和三六年一月三一日の差額九八〇円と同年二月二一日の三五二、五六〇円は共に元帳の出金の項へ、三月二五日の一〇万円は元帳の入金の項へ、従つて元帳は二五三、五四〇円が出金の項へ記載されることになる。

三月八日の二万円は銀行預金帳の出金の項に、五月二九日の一三、〇〇〇円は入金の項へ、従つて銀行預金帳では七、〇〇〇円が出金の項へ記載されることになる。

そうすると、元帳残高は現在の残高五五七、六二六円から右出金二五三、五四〇円を引いたもの、即ち三〇四、〇八六円が正確な残高になる。

また、銀行勘定残高は現在の残高三一一、〇八六円から右出金七、〇〇〇円を引いた三〇四、〇八六円が正確な残高になる。

その限度で元帳残高と銀行勘定残高は合致する。ところが期末決算貸借対照表の残高は三四〇、八二六円なのであるからここに不符合が生じこの点についてもまた原告はなんの説明もしない。

(ハ) 支払手形について

原告は他勘定へ振替えた金額を四、二九九、四四〇円と主張し、その内訳を述べているが、その内訳の合計は四、二九八、八四〇円で右振替え主張金額と六〇〇円の差異があるが、この点、原告はなんら説明しない。

(ニ) 近藤勘定について

原告は自家消費分の金額を一七〇万円と主張し、その内訳を述べているが、その内訳の合計は一、六四六、五〇〇円で右自家消費として主張する一七〇万円と一致せず、五三、五〇〇円の差異があるのに、この点、原告はなんら説明しない。右二、三の勘定科目について検討した如く、原告が各種帳簿間の金額の不一致の理由として説明するところは、これに見合う数字を羅列したにすぎず、その数字もあやふやであつたり、或いはその数字に基いて計算するとその箇所は一応説明できても、他の箇所に不符合が新たに生じたりする有様で原告の説明によつては到底不一致の原因は究明できない。

即ち、それ程に、原告帳簿は不備なものであるというほかないのであつて、かかる結論を左右するにたりる事実を証すべき証拠はない。

以上認定事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告は現金売りを主体とする米穀等の小売商であり、その帳簿組織及び経理方法は現金主義に基いているにもかかわらず現金管理に確実性を欠くともに、その帳簿記帳は必ずしも正確でなく原始記録の保管も不充分であると見られるので、原告備付帳簿によつては正確な収支計算ができないものとして、法人税法第三一条の四第二項に基き原告の本件事業年度の所得を推計した被告の本件更正処分は適法である。

四、本件更正処分の実質的適法性

そこで次に被告主張の如き推計方法による所得金額の認定が合理的なものであるかどうかについて検討する。

(一)  原告が米穀等の販売業を営むものであることは当事者間に争いがない。

(二)  仕入高と売上原価

乙第三号証、四号証、五号証の二、六号証の二、七号証の二、八号証の二、九号証の二、一〇号証の四、一一号証の三、一二号証の三、一三号証の三、一四号証の二、一九号証によれば原告会社の本件事業年度期中の仕入れが別表二の(B)欄記載のとおりであることが認められ、その期首、期末の在庫高が同表(A)(C)欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。そうすると、その販売(売上)原価は同表記載のとおり合計七六、七三二、九四〇円となることは明白である。

(三)  売上高

被告は右販売原価に配給米、自由米その他種別に応じた差益率、雑収入率を適用して売上高を推計している。

証人鶴田亀鶴の証言(第一、二回)、乙第二三号証および弁論の全趣旨によれば右差益率、雑収入率は名古屋国税局作成の昭和三六年分商工庶業所得標準率表によつたものであり、同表は名古屋国税局が管内税務署に指示して商工庶業者を対象としてその業種、地域別、規模差により区分し個々の業者の中から無作為抽出法により選出した者の昭和三六年度における事業の収支の実績を調査し、これを基礎として各売上金額に対する売買差益、雑収入の平均値を算出して作成されたものであることが認められ右認定を覆えすにたりる証拠はない。従つて原告が右所得標準率表に挙げられている業者と営業場所及び営業規模について明かに異つている等の事情が認められない限り原告の売上原価に右差益率、雑収入率を適用して原告の収入金額を推定することは一応合理的な推計方法として是認しなければならない。

そこで右標準率表にしたがつて推計計算すると、原告の売上高は別表三の売上金額欄記載のとおりになることが認められ、その合計額は八三、八九二、四八四円となる。

(四)  売買利益

右(三)の売上金額八三、八九二、四八四円から同(一)の売上原価七六、七三二、九四〇円を引くと売買利益は七、一五九、五四四円となる。

(五)  営業利益

原告会社の諸経費の合計金額が三、七一三、三四七円であることは当事者間に争いがない。故に右(四)の売買利益七、一五九、五四四円から右諸経費の合計金額を差引くと営業利益は三、四四六、一九七円となる。

(六)  営業外利益のうちリベート

乙第五号証の二によれば原告が期中に受領したリベートは愛知米穀商協同組合からのもので、二四一、八二二円であることが認められる。

その他の営業外利益、利息、配当がそれぞれ一、六八五円、二五、二七六円であることは当事者間に争いがない。従つて営業外利益は以上合計二六八、七八三円となる。

(七)  営業外損失

(1)  減価償却

乙第二〇号証、二四号証ならびに証人鶴田亀鶴の証言(第一回)によれば、原告会社は、その設立前の昭和三三年六月に五三三、一七〇円で取得されたオート三輪車一台を昭和三五年七月一日の原告会社設立時に四九五、〇〇〇円で引きついでいる事実を認めることができる。右引継価額は取得時から引きつぎ時までの経過年数から見ると過大であると解される。その妥当な引継価額は所得税法施行規則第一二条の一一第一項第二号に規定する定率法により減価償却額を算定する方法によりこれを定めるのが、特に反証のない本件では相当であるというべきである。

そうすると、昭和三三年六月当時、オート三輪車については次の諸規定所定の耐用年数、償却率が適用される。

耐用年数五年(昭和三三蔵令第五五号、固定資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令別表一)

償却率〇・三六九(右令別表一〇)

月割分(所得税法施行細則第二条第一項第一号第二項)

これを右オート三輪車に適用計算すると、その引つぎ時の減価償却額は三一七、八六五円となる。従つて税法上是認されを右オート三輪の引継価格は二一五、三〇五円というべきである。

又、本件事業年度の右オート三輪の減価償却については次の諸規定が適用され左記耐用年数、償却率となる。

耐用年数四年(昭和三六蔵令第二一号、固定資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令、附則第二項、別表一)

償却率〇・四三八(右令別表一〇)

すなわち、右物件の本件事業年度の減価償却額は九四、三〇三円となる。従つて原告の計上した減価償却額二三三、五二八円から右適正減価償却額九四、三〇三円を差引いた一三九、二二五円が減価償却超過額となる。故に、本件事業年度の減価償却額は原告主張の九二五、七二四円から右超過償却額一三九、二二五円を差引いた七八六、四九九円となる。

(2)  支払利息(未経過利息)

乙第二一号証の二ならびに証人鶴田亀鶴の証言(第一回)によれば原告は本件事業年度中に協和銀行笠寺支店へ未経過利息として一七、九五〇円(その計算方法は被告主張のとおりである)を支払つていることが認められる。従つて支払利息は原告主張の一八五、八七三円から右未経過利息分一七、九五〇円を差引いた一六七、九二三円となる。

(3)  売却損

乙第二四号証ならびに証人鶴田亀鶴の証言(第一回)によれば、原告は昭和三四年五月に五二万円で取得されたオート三輪車一台を昭和三五年七月一日の原告会社設立時に四九万円で引きつぎ、昭和三六年二月に二〇万円で売却し、売却損として取得価額たる五二万円より売却価額二〇万円を引いた三二万円を計上している事実を認めることができる。右引継価額は取得時より引き継ぎ時までの経過年数、売却時の値段より勘案して過大であると認められる。

そこで(1)の減価償却の項で述べた規定と計算方法により計算すると右売却時の適正減価償却額は二〇〇、二五八円であることが認められる。これを基礎に計算すると税法上是認される売却損は原告主張の四四三、〇〇〇円から右適正減価償却額二〇〇、二五八円を差引いた二四二、七四二円となる。

(4)  右(1)(2)(3)の合計金額は一、一九七、一六四円である。その他の営業外損失、地代家賃、諸税公課がそれぞれ一三八、三〇〇円、二七、一九〇円であることは当事者間に争いがない。従つて営業外損失は以上合計一、三六二、六五四円となる。

(八)  所得金額

右(五)の営業利益三、四四六、一九七円に同(六)の営業外利益二六八、七八三円を加え、それから同(七)の営業外損失一、三六二、六五四円を差引くと原告の本件事業年度の所得金額は二、三五二、三二六円となることが計算上明らかである。

六、よつて原告の本件事業年度の所得金額を右認定所得額を下廻る二、二五五、七一九円と決定した被告の本件更正処分は適法であり、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川正世 裁判官 元吉麗子 裁判官 三関幸男)

書証目録

原告提出分(甲号証)

<省略>

被告提出分(乙号証)

<省略>

別表一 収支計算書

<省略>

別表二

<省略>

別表三

<省略>

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